第4回 マンションの保険を正しく理解する

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第4回|マンション防災

マンションの保険を正しく理解する

共用部分と専有部分、漏水、火災、台風、地震、水害はどこまで補償されるのか。

2026年(令和8年)9月時点
マンションの保険では、事故の原因だけでなく、損害を受けた場所が共用部分か専有部分か、誰に法律上の責任があるか、建物・家財・賠償のどの補償を使うかを分けて考える必要があります。本稿では、管理組合と居住者の双方が、保険の役割と責任範囲を具体的な事故例から確認できるように整理します。

管理組合の保険だけで住戸内の内装や家財まで守られるわけではありません。共用部分は管理組合、専有部分と家財は区分所有者、他人への賠償は原因者側の賠償責任保険を基本に、補償の空白をつくらないことが重要です。

1 マンションの保険は一つではない

分譲マンションでは、管理組合と区分所有者・居住者が、それぞれ別の保険を契約します。

契約者 主な保険 主な対象
管理組合 共用部分の火災保険・マンション総合保険 外壁、屋上、廊下、階段、エントランス、エレベーター、共用配管、機械設備など
区分所有者 専有部分の火災保険、家財保険、個人賠償責任保険 室内の内装、住宅設備、家財、他人に与えた損害など
賃借人 家財保険、借家人賠償責任保険、個人賠償責任保険 家財、貸主や第三者に与えた損害など。通常、専有部分の建物自体は対象にしない

管理組合が保険に加入していても、各住戸の内装・住宅設備・家財まで当然に補償されるものではありません。逆に、区分所有者の保険は、通常、外壁や共用廊下、共用配管などの復旧費用を対象としません。

2 管理組合が加入する主な保険

2.1 共用部分の火災保険・マンション総合保険

名称に火災保険とあっても、火災だけを補償するものではありません。実際の補償範囲は、保険会社、商品、契約時期、選択した特約によって異なります。

事故・損害 具体例 一般的な扱い
火災 共用廊下、管理員室、機械室などの火災 基本補償となることが多い
落雷・破裂・爆発 落雷による設備故障、ガス爆発 補償対象となることが多い
風災・雹災・雪災 台風、強風、雹、積雪等による屋根・外壁・扉・設備の損害など 補償対象に含まれることが多い。ただし、補償の有無、免責金額、支払条件は契約内容による
水濡れ 共用配管の事故などによる建物内部の水濡れ 水災とは別の補償
水災 洪水、高潮、内水氾濫、土砂崩れなど 選択補償であることが多い
盗難・破損・汚損 共用備品の盗難、車両衝突など 契約内容による
電気的・機械的事故 給水ポンプ、受変電設備などの事故 特約で補償する商品が多い

2.2 施設賠償責任保険

共用部分の管理上の不備や設備の欠陥によって、居住者や第三者に損害を与え、管理組合が法律上の損害賠償責任を負った場合に備えます。

  • 共用配管の不具合により専有部分の天井や家財が水濡れした
  • 共用廊下の床の不具合により居住者が転倒した
  • 外壁タイルが落下し、人や車に損害を与えた

共用部分で事故が起きたというだけで必ず保険金が支払われるわけではありません。管理組合に法律上の賠償責任があることが、通常の支払条件になります。

2.3 個人賠償責任包括特約

区分所有者や居住者など、契約上の被保険者が日常生活上の事故によって他人に損害を与え、法律上の損害賠償責任を負った場合に備えます。洗濯機ホースの外れ、浴槽からのあふれ水など、専有部分からの漏水が代表例です。被保険者の範囲、特約の名称、示談交渉サービスの有無は保険会社・商品によって異なります。個人の火災保険や自動車保険等と重複しても、実際の損害額を超えて二重に受け取ることはできません。

2.4 漏水原因調査費用

漏水事故では、修理以前に漏水箇所の特定が必要です。原因調査費用特約について、次の事項を確認します。

  • 1事故当たり・年間の支払限度額
  • 専有部分内の調査も対象になるか
  • 原因が判明しなかった場合も対象になるか
  • 開口部等の復旧費用を含むか
  • 免責金額があるか

2.5 役員賠償責任保険

理事長、理事、監事などが管理組合業務を行う中で、判断や手続上の問題を理由に損害賠償請求を受けた場合に備えます。故意、犯罪行為、私的利益の取得などは原則として対象外です。

3 区分所有者・居住者が加入する保険

区分所有者が専有部分の内装や住宅設備などを対象として加入する保険は、一般的には火災保険と呼ばれます。火災だけでなく、落雷、破裂・爆発、風災、水濡れなども、選択した補償内容に応じて対象になります。賃借人は通常、建物ではなく、家財保険、個人賠償責任保険、借家人賠償責任保険などに加入します。

保険 主な対象・役割 主な注意点
専有部分の火災保険(建物の補償) 壁・天井・床の内装、建具、キッチン、浴室、洗面台、トイレ、専有配管等 一般に火災保険と呼ばれる。管理規約と保険契約の対象範囲を照合する
家財保険 家具、家電、衣類、寝具など 建物保険だけでは原則として家財を補償しない
個人賠償責任保険 日常生活上の事故で他人に与えた損害 漏水事故の示談交渉サービスの有無も確認
地震保険 地震・噴火・津波による専有部分や家財の損害 火災保険にセットして契約する

4 共用部分と専有部分の境界

保険事故の処理で最も問題になりやすいのが境界です。実際には管理規約、使用細則、設備構造、配管図、竣工図などを確認します。

部位 一般的な区分・注意点
柱、梁、床スラブ、建物躯体 共用部分
玄関扉 扉本体は共用部分、錠や室内側塗装等は専有部分となることが多い
窓枠、窓ガラス 共用部分となることが多い
バルコニー 共用部分だが専用使用権が設定されることが多い
室内の壁紙、床材、天井仕上げ 専有部分
共用立て管 共用部分
枝管・メーターボックス内配管 接続位置、規約、設備構造により判断が分かれる

給排水管は住戸内にあるという理由だけで専有部分になるとは限りません。事故発生後に責任範囲を争わないよう、平常時から規約と配管図を照合しておくことが重要です。

5 具体的な事故と保険の関係

5.1 専有部分から下階へ漏水した場合

例 上階住戸の洗濯機ホースが外れ、下階の天井、壁、家具が水濡れした場合

損害 主に検討する保険
下階の天井・壁紙 マンション総合保険の個人賠償責任包括特約、上階居住者個人の個人賠償責任保険、または下階の火災保険
下階の家具・家電 マンション総合保険の個人賠償責任包括特約、上階居住者個人の個人賠償責任保険、または下階の家財保険
上階自身の床・内装 上階の専有部分の火災保険。ただし、自分の住戸内で発生した漏水による損害が対象になるかは契約内容による
漏水した洗濯機・ホース 経年劣化等の場合は対象外となる可能性が高い
原因調査費用 管理組合が契約するマンション保険の漏水原因調査費用特約等を確認。専有部分内の調査や原因不明の場合を対象とするかは契約内容による

上階居住者に過失があれば個人賠償責任保険が中心です。過失が認められない場合は、下階居住者が自分の火災保険・家財保険を使用することがあります。

管理組合のマンション総合保険に個人賠償責任包括特約が付帯され、事故を起こした区分所有者・居住者が被保険者に含まれ、法律上の損害賠償責任を負う場合は、この特約が適用候補となります。事故発生時は、管理会社または管理組合の保険窓口と、居住者自身が加入する保険の取扱窓口へ連絡します。

ただし、マンション保険に包括特約が付いているだけで、漏水事故の損害がすべて補償されるわけではありません。原因者に法律上の賠償責任がない場合、原因者自身の内装・家財、老朽化した設備そのものの交換、免責金額以下の損害などは対象外となることがあります。居住者個人の保険にも個人賠償責任特約がある場合は、保険会社間で負担調整され、損害額を超えて重複して受け取ることはできません。

5.2 共用配管から漏水した場合

損害 主に検討する保険
共用配管そのもの 経年劣化・腐食等による修理・交換費用は原則として保険対象外。突発的な破損等は、破損・汚損補償などの契約内容を確認
専有部分の天井・壁 管理組合の施設賠償責任保険、または住戸側の火災保険
家財 管理組合の施設賠償責任保険、または住戸側の家財保険
原因調査 管理組合の漏水原因調査費用特約

経年劣化した配管を更新する費用と、漏水によって生じた二次的損害は別問題です。保険は、老朽化設備を計画的に新品へ更新するための制度ではありません。

5.3 専有部分で火災が発生した場合

損害 主に検討する保険
出火住戸の内装・家財 出火住戸の建物火災保険・家財保険
共用廊下・外壁等 管理組合の共用部分火災保険
隣接住戸の内装・家財 原則として隣接住戸自身の火災保険・家財保険
管理組合等への賠償 出火者に法律上の損害賠償責任が認められる場合は個人賠償責任保険等を検討。失火責任法の適用や、共用部分への損害が補償対象となるかは、事故状況と契約内容による

失火責任法により、故意または重過失がない失火では、火元が隣接住戸等に不法行為上の損害賠償責任を負わない場合があります。ただし、契約上の責任などまで一律に免除されるものではありません。自分の専有部分と家財は、自分の保険で守ることが基本です。

5.4 台風・強風による被害

  • 屋上、外壁、共用廊下等は管理組合の風災補償
  • 専有部分の内装は区分所有者の火災保険
  • 家財は区分所有者の家財保険
  • 自動車は自動車保険の車両保険
  • 窓ガラスやバルコニー隔て板は、規約と契約内容を確認

風災補償に免責金額が設定されている場合、修理費が免責金額以下なら保険金は支払われません。

5.5 地震による被害

火災保険では、原則として地震による損壊、地震火災、津波、地震を原因とする漏水や設備損傷を補償しません。これらに備えるには地震保険が必要です。

対象 契約者
共用部分 管理組合
専有部分 区分所有者
家財 区分所有者・居住者

区分所有者が専有部分の地震保険に加入していても、管理組合が共用部分の地震保険に加入していなければ、共用部分の復旧資金は修繕積立金や一時金に頼る可能性があります。

地震保険金額は、原則として火災保険金額の30%から50%の範囲で設定します。実際の修理費を1円単位で精算する仕組みではなく、損害程度を全損、大半損、小半損、一部損に認定して支払います。

5.6 洪水・高潮・内水氾濫

水災補償は、河川氾濫、高潮、集中豪雨による内水氾濫、土砂崩れなどを主な対象とします。マンションでは、住戸より先に地下・低層階の受変電設備、給水ポンプ、排水ポンプ、エレベーター設備、機械式駐車場などが被害を受けることがあります。

水災補償には、床上浸水、地盤面から一定の高さを超えた浸水、一定以上の損害割合などの支払条件が設けられている契約があります。地下設備や機械設備が浸水した場合の条件を具体的に確認します。

用語 意味
水災 台風、暴風雨、豪雨等による洪水、高潮、内水氾濫、土砂崩れなどによる損害
水濡れ 給排水設備の事故や他住戸からの漏水など、建物内部で生じる水による損害

近年の豪雨では、地下や1階の共用設備が浸水し、建物が倒壊していなくても、停電、断水、エレベーター停止、機械式駐車場の使用不能が長期化することがあります。管理組合は、水災補償の有無だけでなく、屋外・地下設備が保険の目的に含まれているか、建物全体の保険金額が適正か、設備に個別の支払限度額が設けられていないかを確認する必要があります。

豪雨・浸水で生じる損害 主に確認する補償・条件
受変電設備、給水・排水ポンプ、エレベーター設備の浸水損害 管理組合の建物火災保険の水災補償。設備が保険の目的に含まれるか、支払基準、免責金額を確認
地下・1階の共用廊下、壁、床、管理員室等の損害 共用部分の水災補償。床上浸水等の条件が共用部分にどう適用されるかを確認
住戸内の内装・住宅設備の浸水損害 区分所有者の専有部分火災保険の水災補償
家具、家電、衣類等の浸水損害 居住者の家財保険の水災補償
車両の浸水損害 原則として自動車保険の車両保険。マンション火災保険では通常補償しない
復旧までの仮設電源、臨時給水、代替設備等の費用 各種費用保険金・特約の対象範囲と限度額を確認
止水板の新設、設備のかさ上げ、老朽設備の更新 事故後の復旧を超える改良・予防工事は、原則として保険対象外
テナントの休業損失、居住者のホテル代等 通常の共用部分保険では当然には補償されない。専用特約や各自の保険を確認

雨漏りについても注意が必要です。屋根や外壁に老朽化、施工不良、防水不良があり、そこから雨水が浸入しただけでは、水災として補償されないことがあります。一方、台風で屋根や外壁が破損し、その破損箇所から雨水が入り込んだ場合は、風災として検討されることがあります。事故原因と契約条件によって判断が分かれます。

6 更新時の保険料はどのように決まるのか

保険料は前年保険料への一律加算ではありません。次の要素を組み合わせ、保険会社ごとの商品・料率・引受判断によって決まります。

区分 主な要素
建物・契約 所在地、構造、建築年、戸数、延床面積、保険金額、期間、補償、免責金額、設備内容、水災・地震リスク
マンション固有 築年数、過去の事故件数・支払額、漏水状況、配管更新、大規模修繕、管理状況、独自の評価・割引
社会全体 自然災害の増加、修理費・人件費の上昇、保険金支払実績、参考純率や商品の改定

2024年10月以降の火災保険参考純率では、水災リスクが市区町村別の5区分に細分化されました。実際のマンション管理組合向け保険の料率・区分・適用方法は、保険会社や商品によって異なります。同程度のマンションでも、所在地、築年数、事故履歴、補償内容によって保険料は異なります。

6.1 事故実績をみる評価期間

マンション総合保険には、過去の保険金支払件数や損害率を、更新時の保険料、割引、免責金額または引受条件に反映する商品があります。事故実績を確認する期間や算定方法は、保険会社・商品によって異なり、全国一律ではありません。

更新直前では、次回契約に用いる評価期間がすでに終了していることがあります。満期の6か月から1年前を目安に、取扱代理店へ、評価対象期間、事故件数、支払保険金額および次回契約への影響を確認します。事故が発生した場合は、保険会社または取扱代理店へ速やかに連絡し、補償の対象となる可能性、免責金額、事故件数への算入および更新条件への影響を確認します。保険金を請求するかどうかは、補償内容と将来の更新条件を確認したうえで、管理組合として判断することが大切です。

7 保険料が高くなったときの見直し方

  • 複数の保険会社から同一条件で見積りを取る
  • 保険金額が過大・過小でないか確認する
  • 少額事故の免責金額を引き上げる影響を比較する
  • 重複する特約を整理する
  • 個人賠償責任包括特約の必要性を検討する
  • 水災補償をハザードマップと設備配置から検討する
  • 給排水管更新や止水対策などの事故防止策を進める
  • 少額事故の連絡・保険請求・自己負担に関する検討手順を決める

保険料だけを理由に重要な補償を外すのは危険です。特に水災は、住戸が2階以上でも、地下・1階の受変電設備や給水ポンプの浸水により、マンション全体が長期間停電・断水する可能性があります。

8 管理組合が更新前に確認すべき事項

更新の少なくとも6か月前から、次の資料を準備して検討します。

  1. 現在の保険証券と補償・特約一覧
  2. 過去5年から10年間の事故一覧と支払保険金額
  3. 補償ごとの免責金額と支払限度額
  4. 給排水管の更新・更生履歴
  5. 大規模修繕工事の実施履歴
  6. ハザードマップ
  7. 受変電設備・給水ポンプ等の設置階
  8. 管理規約の共用部分・専有部分の定め
  9. 区分所有者向け保険案内の有無

見積書は総額だけでなく、保険金額、補償事故、免責金額、特約、1事故・年間の限度額、原因調査費用、示談交渉サービス、地震保険の有無、保険期間をそろえて比較します。

9 管理組合と居住者に必要な備え

管理組合 区分所有者・居住者
共用部分の補償範囲を確認する 区分所有者は専有部分の火災保険を確認する。賃借人は家財保険・借家人賠償責任保険を確認する
漏水原因調査費用と施設賠償責任保険を確認する 家財保険と個人賠償責任保険を確認する
設備配置とハザードマップから水災補償を検討する 専有部分・家財の地震保険を検討する
共用部分の地震保険を検討する 洗濯機ホース、給水管、排水口を定期確認する
事故時の連絡・応急対応手順を整備する 自分の保険と管理組合保険の対象を混同しない

まとめ

マンション保険では、保険に加入しているという事実だけでは十分ではありません。事故原因、損害場所、責任の所在、建物・家財・賠償の区分、免責金額、支払条件を整理できる契約になっていることが重要です。

管理組合の保険と各住戸の保険は、どちらか一方だけでマンション全体を守れるものではありません。また、保険は老朽化した設備を計画的に更新する資金ではありません。適切な点検・修繕・事故予防を行ったうえで、それでも発生し得る大きな損害に備えることが保険の役割です。

参考情報

倉持マンション管理士事務所|マンション防災・管理組合支援